生産技術の開発
元来、土には植物を健全に育てる力があり、植物には人の手を借りなくても与えられた土に根を張り、土から養水分を吸収し、葉を中心に光のエネルギーを受けながら生育していく力が備わっています。このような土や植物が持つ力の理解を深め、その力が最大限活かされるような生産技術の研究開発を行っています。
具体的には、以下の課題に重点をおいています。
(1)土づくり
作物生育の良不良は土壌に大きく影響されます。作物生産に対して、土が持つ本来の力を発揮させるためには、土壌に必要以上の負荷を与えず、作物生産を補助する土壌微生物の活性を促し、根伸びの良い土壌環境を整えることが基本になります。そのためには、化学合成された肥料や農薬などの資材は使用せず、自然環境中にある有機物を巧みに活用することで、これらの働きを最大限に引き出すことを目標にしています。
土づくり技術としては、堆肥や緑肥の鋤込み、枯草や落葉の深層施用、深根性植物の導入による土壌物理性の改善、省耕起による土壌有機物の消耗軽減、雑草草生栽培による土壌の膨軟化や保湿性の確保などについて開発しています。
(2)有機物の循環
自然農法の真髄は有機物を巧みに活用する点にあります。単に、堆肥などの有機質資材を投入するだけでなく、圃場の中や周辺で生息する植物を障壁や被覆に使ったり、苗の温床づくりに利用したりします。
枯草や落葉による自然堆肥を未熟な段階で使用する場合は表層施用を行います。家畜ふん堆肥を使用する場合は、原料の元となる家畜が健全に飼育されており、かつ完熟したものを使用します。有機質肥料や土壌改良材は補助資材と位置づけ、土壌診断データに基づいた上で、使用量を必要最小限にとどめます。
(3)自然農法に適する種苗の育成
種子の質は作物の生育や農作物の品質に大きく影響すると同時に、種子の質には栽培環境要因が強く反映されることは良く知られています。自然環境中の有機物の活用が主体となる自然農法においても、そのような栽培体系に適合した種子を選ぶ必要があります。そのためには、近隣の地域において、自然農法で栽培・採取された種子をできるだけ用いることが望ましいと考えています。
現在、自然農法で生産性の高い、コメ、サツマイモ、サトイモ、ジャガイモ、ダイコンなどの育種を行い、全国各地でそれぞれの土地に適応する品種の選抜を行っています。
(4)病害虫対策
自然農法は化学合成農薬を使用しません。そのため、病害虫への対応は、作物の体質改善や病害虫が出にくい環境を整えることを基本とします。
具体的には、土づくりを進めることで作物を病害虫に強い体質にすること、天敵の種類と数を豊かにするため、前後作、混植・混作・間作、共栄作物、忌避植物、障壁作物などを取り入れること、抵抗性品種を導入すること、その他病害虫の生態に応じて適切な手段を取ること、などによる対策を講じます。